【編集後記】『スト6』世界大会決勝戦で翔に敗れた15歳のBlazがおっさんゲーマーの心をわしづかみにした理由

『スト6』の最強を決める「カプコンカップ11」が両国国技館で開催され翔(かける)が見事優勝。「カプコンカップ」っていうのは毎年開催される、いわば年間王者を決める世界大会なんだけど、今年は初となる日本での開催となった。しかも、会場は両国国技館。

中年の格ゲーマーならば、即座にピンと来るあの会場。そう、かつて「ストリートファイター II」シリーズの全国大会が開催された“聖地”だ。

▲国技館のレイアウトってeスポーツのステージに最適なんじゃないか説

そんな強烈に役者のそろった「カプコンカップ11」で見事日本人の選手が優勝したのは、まるで絵に描いたようなストーリー。もう、これで熱狂しなかったら何で熱狂するんだよというくらい会場が盛り上がってた。

▲優勝したのは福島のeスポーツチームIBSHIGIN所属の翔選手

そんな傍ら、じわじわと会場のファンの心をわしづかみにした選手がいる。チリ出身のBlaz(ぶらず)だ。彼は15歳という最年少プレーヤーでありながらも、決勝戦まで上りつめた神童。そんな彼のプレーに心を動かされたファンも多かったのではないだろうか。かつて「ストリートファイターII」シリーズで熱狂していた中年ゲーマーにガン刺さりしたのはいうまでもない。

なんとも言えない、わき上がる感情。久々だったんじゃないかな。では、なぜBlazのプレーが中年ゲーマーの心をわしづかみにしたのかを考えてみる。

圧倒的主人公

優勝した翔が使用するキャラはJPという『スト6』で追加された新キャラだ。正直JPは、何も知らない中年プレーヤーには難解すぎる。「おっ、なんかストリートファイターの世界大会が国技館でやってるらしいぞ。どれどれ懐かしいから見てみるか」といった中年層にとって、JPの立ち回りはあまりに異色すぎるのだ。

『スト6』をやっていなければ、何をやっているのか理解が追いつかない高度なものに見えてしまうだろう。

▲『スト2』にはなかった空中設置型の飛び道具で翻弄(ほんろう)するJP。高度な翔の立ち回りに「えっ、なになに?」となってしまうのも無理はない

一方、Blazの使うリュウは超シンプル。『スト2』ならやったことがあるというレベルでも、何をやってるのかが視覚的に理解しやすく、かつての主人公だったというスーパー思い出補正も相まって、どことなくノスタルジックな気持ちにさせてくれるのだ。

▲差し合いでは大足でダウンを奪うBlaz。格ゲーの基本でありながら、なかなか見る機会が失われつつある単発の差し返しは『スト2』の地上戦に似ている。Blazはこの大足の使い方が秀逸で、差し返し方がとにかくカッコいい!

厳密には「下段強キック」なんだけど古ゲーマーは「大足」といってしまう。実況のアールさんの「大足っ」という声がまた当時のゲーセンで開催されていた大会を思い出させる。

▲『スト6』で永田投げ!? 投げはすかしになってしまったが、この屈伸、そしてこのリズム、堪らない

もちろんあの頃に比べれば技の種類も増えてはいるものの、どこかで見たような懐かしい立ち回りにグッときた中年プレーヤーも多かったはず。

▲通称「マリオパンチ」と呼ばれていたリュウのジャンプ中パンチ。『スパ2X』の頃から、上判定に強く意外と空対空に使える技だったのだが、そんなどこかで見たような空対空をBlazは頻繁に狙っていた

しかも本作におけるリュウは、かつての主人公なのに国内シーンでは評価が低い。おそらく国内のプロでリュウをメインに使っている選手はいないんじゃないかな。というか使ってるプロいるの? っていうくらい日陰の存在。

リュウといえば「ストリートファイターII」シリーズでは硬派の代名詞ともいえるキャラで、カッコいい、寡黙、玄人好みという当時の子どもの憧れでもあるキャラクターだったのだ。

▲昔はバルログの「バルセロナアタック」に対して昇龍拳で対空するだけでヒーローだった。根元なら1,000点と得点が高くなるのも懐かしい

そんな憧れだったキャラも、自身が大人になり社会を知ると、リュウの見方が変わってしまう人も……。「あれ、こいつ実は何もしてないニートじゃね?」、「ケンの方がお金持ちで彼女もいるし、人間的に優れているのでは?」というまったく関係ない方面からも叩かれる始末。そんな、かつての主人公が、今まさに15歳の少年によって『スト6』でも主人公になろうとしていたのだ。

魅せるプレーで共感指数を爆上げ

彼のプレーの魅力のひとつが思わず歓声を上げてしまうほどの逆転劇だ。体力が少ない状況からの逆転は『スト6』のシステム上起こりやすいことではあるが、彼の逆転劇は見るものをを魅了するインパクトがある。

正直いって、決勝トーナメントのどの試合よりも彼の試合はワクワクで満ちていた。久々に鳥肌が立つ感覚に襲われたのは、🇯🇵Shutoとの試合だ。

▲フルセットフルカウントのまさにあとがないこの状況まるでウメハラの排水の逆転劇を彷彿とさせるパリィからのコンボ。これまた締めの技が昇竜拳の上位互換「真・昇龍拳」であるから、絵面的にも中年ゲーマーににガン刺さりなんですわ!

国技館でリュウの「真・昇龍拳」でKOしまくるBlaz。これが主人公じゃなかったら何だっていうんだってくらい日本のファンを虜にしていた。

▲誰だか分かるかな? 初代国技館王者の中野サガットですよ。彼とBlazの試合を見ながら、「やばっ、鳥肌立ったわ」と感極まる中年ゲーマーふたり

Blazの魅力はこれだけではなく、とにかく当て感がいい立ち回りとフレッシュさの融合。質実剛健な立ち回りの中身見え隠れする若さあふれる反応速度が、見ていて気持ちがいい。15歳といえば中年ゲーマーは『スト2』に明け暮れていた年代だ。「自分も若い頃はこれくらいできたのにな〜」ができなくなってくると、Blazの立ち回りは、まるで当時の自分がプレーしているかのような錯覚すら覚える。

▲とっさに使われると見えない中段攻撃。いや、見えてるんだけど体が反応しないのが中年ゲーマーの性。「あーーっ!」って思いながらしっかり立ちガードをするBlazの安心感がそこにある!

Blazが勝つたびに会場の声援が大きくなる。日本勢の声援で会場が熱狂に包まれる中、Blazの声援も負けず劣らずの勢いになっていった。

ルーザーズからの怒濤の大逆転

Blazは決勝トーナメントの1戦目で翔に敗北。その後ルーザーズサイドからの巻き返しを狙うんだけど、これがまた面白いほど圧倒的に勝ち続けている。

🇦🇪AngryBirdや🇰🇷Lesharなど、最近の格ゲー界隈で知らない人はいないレベルの強豪選手に1本も取られることもなく勝利するというとんでもない勢いで決勝戦まで上りつめていた。ちなみにルーザーズの対戦カードは🇯🇵Shuto戦以外ほぼ無敗。気持ちのいいくらい無双していた。

▲何がヤバイってヘッドセットしてないのよこの子……。なんかふらっと遊びに来て無双しているような絵面が、とんでもないことをしてくれそうなオーラを放っていた

ちなみに彼が大きな大会に出場したのは「カプコンカップ11」が2回目だとか——。どんだけ強心臓なんだよというくらい落ち着いていたのも驚きだ。

翔の優勝も素直にうれしいんだけど、Blazが優勝する世界線も見たかったというのが正直なところ。優勝インタビューで「いや、母国には僕より強いやつがたくさんいる」と、いつぞやの鉄拳のコピペを思い出す発言を期待していたんだけどなー(笑)。

▲有名なコピペ。しかも実話

まあ、とにかく試合を見てみてよ。彼の対戦を見れば彼の魅力が存分に理解できるはずだ。これでリュウを使うプレーヤーが増えるんじゃないかなー。

W1回戦 IBUSHIGIN|KAKERU vs 2GAME|BLAZ
URL: https://www.youtube.com/watch?v=xopcGMIU4e4&t=3330s

L2回戦 2GAME|BLAZ vs GG|XIAN
URL: https://www.youtube.com/watch?v=xopcGMIU4e4&t=13878s

L3回戦 2GAME|BLAZ vs CR/PWS|SHUTO
URL: https://www.youtube.com/watch?v=xopcGMIU4e4&t=20061s

LQF TWIS|NOATHEPRODIGY vs 2GAME|BLAZ
URL: https://www.youtube.com/watch?v=xopcGMIU4e4&t=21711s

LSF REJECT|ANGRYBIRD vs 2GAME|BLAZ
URL: https://www.youtube.com/watch?v=xopcGMIU4e4&t=24887s

LF DRX|LESHAR vs 2GAME|BLAZ
URL: https://www.youtube.com/watch?v=xopcGMIU4e4&t=25529s

IBUSHIGIN|KAKERU vs 2GAME|BLAZ
URL: https://www.youtube.com/watch?v=xopcGMIU4e4&t=26881s

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