【編集後記】『「eスポーツ」なぜ日本で盛り上がらないのか』という記事を見て、eスポーツって盛り上がってないんだなと感じたeスポーツメディアの中の人

今、「eスポーツ」なぜ日本で盛り上がらないのか 専門家が指摘した海外との大きな違いという記事が話題になっています。気になる人は下記のリンクより読んでみてください。私と同じで「記事読むのめんどくさい」という人は、このままこの編集後記をめんどくさがらずに読んでください(笑)。

話題になった記事:
https://www.j-cast.com/2024/01/27476862.html

私は書籍はもとより、eスポーツメディアに関わる人間でありながら、文字を読むのが苦手でありまして、何か話題になっている記事を読むのもなかなか時間がかかってしまう……。

ということで、こういうなにか話題になっている記事を見かけると、まずその記事に対しての反響から読んでしまう。まあ、これが野次馬なんでしょうね。「なんだなんだ?」みたいな。

eスポーツに関わる人間として感じること

このタイトルを見て、皆さんはどのようんな感情を持ちましたか?

「え、何言ってんの?」と思ったのか、それとも「当たり前じゃん」って思ったのか。私は「へぇ、そうなんだ」でした。ただ、2019年からeスポーツメディアでeスポーツに関わるようになって、漠然と「eスポーツって盛り上がってきてるなあ」と感じているのは事実。

『VALORANT』の大会においては、会場にはゲーマーとはほど遠いイメージの子や、若い女の子といった以前のゲーム大会ではなかなかお見かけしないような人たちが、まるでアイドルを見るようにeスポーツの観戦に熱中している。

▲『VALORANT』の国際大会Masters TOKYOは、初の日本開催ということもあって多くのファンが会場に集まっただけでなく、ファン層の多様性を感じるいいきっかけにもなった

『ストリートファイター6』の大会では、親子そろって観戦に来ている家族もいたり、ちょっと年配の方も来ていたりと、幅広い層に人気があるようにも感じていた。そういうeスポーツの変化というのを取材を通じて肌感ではあるものの感じていたものの身からすると、やっぱり「eスポーツって盛り上がってるんじゃないの?」って思ってしまう。

では、なんであのような記事がでているんでしょうか。

反響を見て感じた大きな隔たり

それでも反響を見ると大きく二極化しているようにも感じる。eスポーツを見てきている人の意見は、『VALORANT』の大会をはじめとする、オフライン大会の盛り上がりを例に、eスポーツの盛り上がりを実感していることを伝えている一方で、eスポーツに深く関わっていないっぽい人からは、「どうせチー牛がやってるだけでしょ」とか「民度の低いプレーヤーが選手になってもね……」的な感じの非常に批判的な意見も飛び交ってる。

そんな感想が二極化している記事はいったいどんな内容なんでしょうか。

私は職業柄、記事の内容よりも誰が記事を書いているのかが、気になるのでひとまず誰が書いているのかをざっくり調べてしまう。

記事を見る限り、登場人物はふたりだ。この記事を書いた坂下朋永さんと、この記事の取材対象であるゲームライターの渡邉卓也さん。残念ながら私は面識のないおふたりで、おそらく現場でも会ったことがないのかもしれない。なかなか名前を覚えられない私の性格上、もしかしてばったりお目にかかっている人だったらどうしよう……なんて不安になりながらも、「わからないことは、とりあえずググる」という現代において最強のムーブでざっくり調べる。

坂下朋永さんは、どうやらかつてダウンタウンの番組に対する記事で炎上していて、本名でもない架空のライターなんじゃないか説がでているらしい。超ざっくり調べた結果。

一方で、渡邉卓也さんはゲームメディアライターさんで、ざっと見た感じ家庭用ゲーム機の記事をよく書いているようだ。この方のXの投稿を検索しても、eスポーツのことを語っている投稿は約2万件の投稿中1件しかなかった。これも超ざっくり調べた結果。

そう、つまりこの記事を書いている人も、その取材を受けている人もeスポーツに関わる人ではないのではないかという事実にぶち当たります。もちろん、くどいようですが超ざっくり調べた結果です。

ではこういう記事を書くならば、なぜeスポーツ関連に明るいライターに聞かなかったのでしょうか。例えば岡安さんとか、例えば私とか?(笑)。

つまり、この記事を書いた人はeスポーツ畑にいない人に聞くことに意味があると感じたのではないでしょうか。

実はeスポーツって盛り上がってないんじゃないか説

ここまできてようやく記事を読みました。要約すると、海外に比べるとまだまだで、海外はPCやモバイルゲームが普及している一方、日本は家庭用ゲームが普及しているからeスポーツが盛り上がらないと——。

『ぷよぷよeスポーツ』や『実況パワフルプロ野球』、『太鼓の達人』と、eスポーツを盛り上げようとしているタイトルはあるけど、その中でも「ぷよぷよ」がeスポーツとし比較的認知度が高いということ。らしい。

この記事を見て感じたのは、今eスポーツで最も注目されている『VALORANT』や『ストリートファイター6』、『リーグ・オブ・レジェンド』の話題が一切ないことに違和感を感じながらも、eスポーツのメディアにいながら、この記事に書かれているタイトルについて深掘りをしたことがないことに気づき、がくぜんとした。

私たちが考えているeスポーツと、eスポーツ畑にいない人のeスポーツの視点がこんなにも乖離しているのかという事実を突きつけられたようにも感じた。

もちろん、メディアとして上記のタイトルを扱っていないわけではない。ともくん選手がんばってるなーとか、パワプロの選手にインタビューしたりとか、ある程度は取材しているものの、やはり注目されている『VALORANT』や『スト6』に注力しがちなのがeスポーツメディアではないだろうか。

eSports World以外でも、ほとんどのメディアがいわゆる、今流行のタイトルを追いかけているんじゃないかと思う。ただ記事を読む限り、日本国内では『VALORANT』や『スト6』よりも「ぷよぷよ」の方が認知度が高いのかもしれない。

そう考えると、ある不安が頭をよぎる。

あの時の反響を思い出す

この記事の反響を見た時、まず最初に頭によぎったのが、eSports Worldで掲載したとある記事での反響だった。

【VALORANT】公式大会「VALORANT Champions Tour」から見る『VALORANT』競技シーンに残された6つの課題

この記事は『VALORANT』の競技シーンにおける問題提起を投げかけた記事なんだけど、まあ多くの批判を受けた記事でもあった。この記事はライターの岡安さんに私がこのような内容で書いてほしいって頼んだ記事なだけあって、申し訳ない思いをしたのを今でも覚えている。

この記事は『VALORANT』の競技シーンを俯瞰で見た時に感じるさまざまな問題を取り上げて、改善していく余地があるよねっていう不安要素をまとめた内容なんだけど、『VALORANT』の競技シーンを追いかけている人からすると、「いやいや、それはない」とか「Riotを悪くいいたいだけだ」とか多くの批判がSNSを通じて寄せられていた。もちろん、肯定的な意見もあったけど、やっぱり総合的に見て批判的な意見が目立つ結果となってしまった。

うまく説明できないんだけど、自分たちが盲信して思考ロックしているものに対して、何か別の角度から批判的な意見がでてくると、反発したくなるみたいな気持ちが起こってしまうのは世の常というか何というか。

先の記事も、eスポーツ畑にいない人が俯瞰で見ると、eスポーツってこんな感じなんだという記事であって、そういう外から見たeスポーツの意見を見ると「いやいや、eスポーツって今こんなにも盛り上がっているんですよ」ってeスポーツの中から反発しているだけなのかもしれない……。そう思うとちょっと不安だよね。

私を含め、eスポーツの中にいると、その盛り上がりが当たり前だと感じているけど、ひとたび外の世界に行けば、決してそんなことはない。まだまだ「eスポーツって何?」っていう世界が広がっているのかもしれない。

何より、私が先の記事の登場人物を調べた時のように、結局自分のテリトリーでないものを調べるときって大体あんな感じで、超ざっくりしか調べないもんなです。よほど興味がない限り深掘りなんてしない。ググって最初の方にある情報だけをかいつまんで「へぇ、そうなんだ」と思ってしまうわけです。

いまだにeスポーツってゲームをするだけからスポーツとはほど遠いってイメージを持っている人もいるんですよ。彼らが超絶長丁場で試合していることや、ジムに行って肉体トレーニングをしていることなんか当然しらないでしょうし、意外と過酷な競技シーンだってあるんだよっていうのもしらないと思う。

そう考えると、eスポーツメディアとしては、外の人たちにも「eスポーツっていいよね!」って思ってもらえるように、もっともっとeスポーツの魅力を発信していかなければならないのではないかと感じた。

とはいえ、ぶっちゃけあの記事は炎上した時点で勝ちなんですよ。そうやって話題になるだけで数字取れるし、なにより多くの意見が集まるわけだし。だからあえて専門家が指摘したといいつつ、eスポーツの専門家に聞いてなかったのかもしれない。と、「○○かもしれない」とぼやかせば許されると思っているムーブで記事を締めくくるのであった。

でもちょっとうがった意見をするならば、「テレビゲームをプレイする若い女性」の素材を使ったサムネイルの記事の時点で、信ぴょう性はないと私は感じます。記事の内容を納得させたいなら、もう少し別の素材あったんじゃないかとか、なんかeスポーツの印象操作をしているようにも感じてしまった。

まあでも実際eスポーツは今が踏ん張りどきだからね。がんばりましょう。